いろいろな電子紙芝居を使って授業をしてきたが、
日本のむかしばなしで多いのは、「恩返し」の話だ。羽衣伝説にかぎらずむかしばなしというものは、海外に似たような話が数多く存在するものらしい。しかし、「中国に同じような恩返しのむかしばなしはありますか」と聞いても、いままで「あります」という答えを聞いたことがない。中国の学生が教えてくれたことによると、農夫がヘビを助ける有名なむかしばなしがあるが、後に恩返しを受けるのではなく、そのヘビによって農夫が殺されてしまうのだという。 つまり、善行を施すにも相手を見なければならないという教訓になっているらしい。
ほかに、中国語学習の初歩の段階のテキストに「東郭先生」の話がよく載っているが、これも「悪人に善行を施したら、どこまでも食い物にされる」という教訓の物語であり、おひとよしを嘲笑する物語でもある。こういう物語が人口に膾炙しているということは、中国は日本よりもそれだけシビアな社会で、身内の結束は固いが、それ以外の人々に対しては警戒を緩めてはいけないということなのかもしれない。