スピコンの指導が始まった。
これまでうちの大学は、準備していった内容を話す一部のテーマスピーチではそこそこできがよかったが、その場でテーマを与えられて話す二部の即興スピーチでは撃沈してきた。圧倒的に会話力が足りないからだ。
そこで今回は他の面には目をつぶって会話力がありそうな学生を選んだ。
まずテーマスピーチの原稿を学生に書かせる。内容を見ると、以前、ネット小説作家として大活躍したと書かれている。しかし、抽象的な内容ばかりで説得力がない。「いままでの具体的な経験を一つ書いて、それに基づいて主張を書くように」と言って、何回か修正させたが一向に具体的な内容にならない。
そのうち、「内容はフィクションです。だから具体的な経験は書けません。何か適当な例を教えてください」と言ってきた。
たかだか二十歳そこそこの学生にしては内容が華々しすぎるので、私も薄々、内容はかなり盛ってあるのだろうと思っていたが、実はまったくのフィクションらしい。そのことにも驚いたが、「他人が考えた例を書いてスピーチしたら自分の主張とは言えないだろう。何言ってるんだ、この子は」とも思った。
こんなウソっぽい内容では話にならないので、録音を送って行われる一次審査までもう時間がないけれど、「小さな経験でもいいから、本当の話を書いたほうがいい」と学生に伝え、一からやりなおしとなった。
ぎりぎりに提出された原稿を見ると「SNSでのやりとりで自分が知らないうちに他人に影響を与えることもあると知った」という内容になっていた。まあ、それならば、平凡だけれど、大学生の経験としてあり得る内容だろう。
しかし、今日、そのSNSのエピソードさえも、一緒に指導している中国人の先生が考えてやったものだと知った。
明日中に資料をそろえて応募し、それ以降の一か月で実際の出場に向けての指導が始まる。それにしても、あの他力本願の学生にうちの大学の代表がつとまるのだろうか。先行きが思いやられてきた。
〇しかし、一方で、中国のスピコンというものは、この学生のように「嘘か本当かわからないような」大げさな話をする学生が多いのも事実なのだ。とにかく外連味があったとしても、印象が強いものが評価されてしまう。
学生がケロリとした様子で「あれは全部フィクションだから、具体的な内容は書けません」と言ってきたのも、そういうことに対する罪悪感がないからかもしれない。もしかしたら、中国の学校教育にそういうものを書かせる傾向があるのかもしれない。