中国に来たばかりの頃に北京から杭州へ旅行したことがある。
たしか工場用地を買い付けるための夫の出張に、わたしも杭州のじいさんに挨拶するためについて行った。
そのとき、南宋御街でそまつな木の額にはいった豊子愷の絵(もちろん印刷)を見つけ、買おうか買うまいか迷ったが、結局は買わなかった。小さい子ども二人が窓から紐を付けた籠をおろして粽を買っている絵だった。あの時はリュック一つで杭州に来ていたので荷物が増えるのがいやだったし、またそのうち買えるだろうと思っていたのだ。
それ以来、その絵にまた出会うことはなかったが、つい最近買った画集に載っているのを見つけた。しかし、壁に掛けられるような絵はタオバオなどで探してもいまだに見つからない。
ほしいものがあったらその場で買わないとそれっきりになってしまうことがある。
あの絵もその一つだった。
〇昨年の夏休みに某デパートで黒いリネンのワンピースを見つけて思わず足をとめた。
しかし、わたしが欲しいと思うのはたいてい似たような服でそれと同じような服をすでに持っていた。値段が気になって、値札を服の襟元から引っ張り出そうとしていると店員が来て、「お値段気になりますか」と聞かれた。値段はふだん買う服の価格帯を考えると少し高かった。「これ、いいですよね。でも、同じような服をもっているので買いませんけど」というと、「ええ、かまいませんから、ゆっくりご覧になってください」というようなことを言われた。
家に帰ってから「やっぱり買えばよかったな」と後悔し、一週間くらいしてからまたデパートに行ったら、もうその服はなかった。やはり買おうと思った時に買わないと永遠に縁を失ってしまうのかもしれないなと思ったが、あきらめきれずその店のネットショップを見てみたら、そのワンピースがあった。「残りわずか」という文字をみて思わず購入。
今回は一度の縁を逃しても次の縁があった。こうして他人が見たら区別がつかないような同じような服をまた増やしてしまった。でも、買わなかったら、きっといつまでも後悔するだろうからしかたがない。