2024/12/17

『五四遺事』張愛玲

 相変わらずの生活をしている。

昨日と今日で張愛玲の『五四遺事』を読んだ。五四運動に関係があるストーリーかと思ったら、そうでもない。民国時代の恋愛物語。しかし、ロマンチックではない。舞台は杭州。

杭州に二組のカップルがいる。男性二人は詩人気取りの教師である。

それぞれ杭州に恋人がいるが、実は故郷に妻がいるのである。

その二人の男性の一人である羅は恋人のミス范と結婚するために、故郷の妻と離婚しようとする。当時の小説などによくあるように、故郷の妻は親が決めた妻なのである。さんざんもめた末に、ついに離婚するが、そのころ、羅はミス范が親の勧めで別の男性と見合いをしたことを知る。そこで、羅はミス范との結婚をあきらめ、王という別の女性と結婚するが、その後、ミス范の縁談は破談になったことを知る。

周囲の人たちの計らいにより、羅とミス范は再会した。ミス范は以前と少しも変わることなく、美しいままだった。羅はミス范と結婚するために、これも散々もめた末に王と離婚する。やっとのことでミス范と結婚し、西湖湖畔に小さいが美しい新居を設ける。しかし、いざ結婚してみると、ミス范は身なりにも気を遣わないだらしない女性になり、あっという間に容姿も衰えてしまった。二人の間には口論が絶えなくなる。周囲の勧めにより、いったんは離婚した王を家に迎え入れることになる。その後、周囲の人が「王を家に迎え入れたのに、一番最初の妻を家に迎え入れないのは不公平だ」というので、最初の妻も家に迎え入れることになる。

こうして、すでに名目上は一夫一婦制の社会になっているのに、羅は三人の妻とそれぞれの子どもと使用人と乳母を養うことになる。彼はこれまでの離婚裁判で二人の妻に少なからぬ金を払ったうえに、こうした大家族を養うことになり、その負担も並大抵ではない。しかし、周囲の人たちには「西湖畔の家に三人の妻と住んで結構な身分ではないか」と言われるのである。


この小説は邦訳も出ていて、その題名は『中国が愛を知った頃』というらしいが、そこから思い浮かべるような甘美なストーリーでは全くない。五四運動後の新しい時代の風を受けて、ロマンチックな自由恋愛に目覚めたはずが、すったもんだの末、古い時代の一夫多妻制のような、しかもたいして幸せでもない生活をするようになる。このように読む人の甘いストーリーへの期待をさらりとかわして皮肉な結末に導いていくのがさすが張愛玲なのかもしれない。


5 件のコメント:

  1. 漱石の小説も「愛を知った頃」らしい苦悩っていう感じ。

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  2. あ、「こころ」とか?
    あれ、高校の教科書に載っていたけど…。高校生が読むのに適した小説なんでしょうか。…とずっと思っています。

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  3. 中国の本を読んだことがないのですが、このところ読んでみたくなっています。うさぎさんの影響、、

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  4. まず読むなら何がいいんでしょうね。
    やはり新しい人で翻訳がある人なら、余華や蘇童とか?
    春月ねいさんのおすすめは何かな。
    ちょっと古いけど、老舎「駱駝の祥子」?
    これは中国語があまり読めない頃に夢中になって読みました。
    『三体』がすごく人気らしいですが、若い人が読む本かなと思って未読です。

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  5. 中国語で読むわけではないので、どんな作品でもいいのですが、検索すると、どこでも「三体」がトップに出てきます。
    どれにしようかな。

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